Case事例紹介
橋梁の変位モニタリング
六十谷水管橋の時系列変位
−Sentinel-1画像によるNN-PSI解析−

目的:Sentinel-1衛星画像の時系列InSAR解析(NN-PSI)にて、水管橋崩落前の時系列変位を推定し、崩落の兆候があったのかを確認する
東京工業大学/松岡昌志
株式会社テラフェーズ/大串文誉

崩落:2021年10月3日
(2020年12月時点のGoogle Street Viewにて3つの吊り材の上部に破断を確認)
概要:紀の川に架かる長さ約550 mの水管橋で1975年(昭和50年)3月に完成。六十谷橋 (県道141号) の下流側、紀の川大堰の上流側に位置する。和歌山市の紀の川北側に送水するための水道管をわたす唯一の橋である。
構造諸元:
橋長546.85 m
構造形式は送水管を補剛桁とする最大支間長59.3 mの鋼ランガー橋7連である。
Wikipediaより
崩落前後のGoogle Earth画像

被害状況

土木学会関西支部:2021年10月に発生した六十谷水管橋崩壊 調査報告書,2022.5

SBASとPSI
SBAS(Small BAseline Subset)とPSI(Persistent Scatterer Interferometry)の特徴と違い
SBAS
- 広域モニタリングに適している
- 周辺のピクセルを用いて位相をアンラップするため2πを超える変位についても推定ができる
- 非線形的な時系列変位にも評価できる
- 周辺のピクセルの情報を用いるため,フィルタ処理等により空間解像度が低下する
- 都市域など建物の倒れ込みがある場合には,正しい変位が求まらない
PSI
- 変位の推定は単独のピクセルにて実施するため空間解像度が高い
- 異なる角度から観測するステレオ視のような手法であるため,高さ情報も求められる
- 変位は線形的に変化すると考えている
- 2πを超えない範囲でのみ変位推定ができる(超えるような大きな変位は判断できない)
NN-PSI
(Non-Linear Non-Parametric Persistent Scatterer Interferometry )
都市域の大規模変動をより厳密に推定するために,PSI法を改良して位相アンビギュイティの問題を解決した手法

既往のPSIの変位推定

NN-PSIの高さ推定

NN-PSIの変位推定

データリスト Descending

データリスト Ascending

PS点の分布

NN-PSI解析画像

時系列変位

時系列変位(3時期移動平均)

時系列変位(5時期移動平均)

NN-PSI解析画像

時系列変位

時系列変位(3時期移動平均)

時系列変位(5時期移動平均)

2方向成分への分解(G4径間ー崩落前)
2方向(おおよそ東、⻄)からの視線(LOS)が作る平面における変位(赤点線)を、2つのLOS変位から求め、さらに、準上下成分と準東⻄成分(赤実線)に分離する。2つの観測の照射角および入射角がそれぞれ異なり、画像内の地点においても異なることから、上記の平面は完全な東⻄方向を示さず、かつ、垂直にはならないため、「準」という表現を使う。

考察

- NN-PSIの解析結果によると、G4は2020年夏〜秋頃(8月〜10月)からAscendingおよびDescending共に衛星から遠ざかる方向に移動しているため、この期間に破断した可能性があり、2020年12月のGoogle Street Viewにて水管橋の吊り材に破断が確認されている点と符号する。
- 破断箇所が上流側(東側)であることから、水道管は沈下だけでなく、下流側(西側)に移動することが考えられ、NN-PSIでの解析結果(約9mm沈下、西に約5mm移動)と矛盾しない。

- G4崩落後の現地調査にてG5の吊り材に破断があることが確認されているが、崩落前までのデータに基づくNN-PSIの解析からは顕著な移動は認められない。
まとめ
- 2021年10月3日に崩落した和歌山県の六十谷水管橋について、2020年1月〜2021年10月の期間におけるSentinel-1衛星画像にNN-PSI(時系列InSAR解析)を実施し、崩落前における橋の変位(衛星視線方向の変位)を推定した。
- Descending(やや東から照射)およびAscending(やや西から照射)のデータセット共に、崩落箇所において、2020年8月から9月にかけて衛星から遠ざかる方向に変位し始めており、2020年12月のGoogle Street Viewにてトラス吊り材が破断していることを確認した点と整合する。
- DescendingとAscendingの解析結果から推定した崩落時点での準上下および準東西方向の変位は、それぞれ、-9.20mm、-4.59mmとなり、吊り材の破断箇所から想定される水道管の移動と矛盾しない。