Case技術・事例紹介

信頼性の高い橋梁インフラモニタリングに向けて
― 複素数SARシミュレーションの評価 ―


テラフェーズ 大串 文誉
東京科学大学 環境・社会理工学院 宮本 崇

概要

合成開口レーダ(SAR)は、広域の社会インフラを継続的に観測できる技術として注目されている。一方、橋梁などの人工構造物では、複雑な撮像幾何や周辺環境の影響により、SAR画像の解釈が難しい場合がある。本研究では、橋梁を対象としたSARシミュレーションを実施し、実際の衛星観測データとの比較を通じて、橋梁モニタリングへの適用可能性を検討した。

1. 背景と目的

SAR画像シミュレーションは、実際のSAR画像に現れる複雑な散乱パターンや幾何学的特徴を理解するために有効である。特に橋梁では、構造物の形状に加えて、水面からの反射や多重反射などが画像形成に影響するため、観測結果の解釈が容易ではない。本研究では、橋梁の3次元モデルを用いたSARシミュレーションを行い、観測画像との比較から、振幅および位相情報を利用した構造変形評価の可能性を検討した。

2. 対象地域と使用データ

対象は山口県の上関大橋とした。この橋梁では2020年11月に桁端部の浮き上がりによる路面段差が発生している。解析には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用するALOS-2 PALSAR-2の複数時期のSAR観測データを使用した。


図1. 対象地域および上関大橋の位置

3. 研究手法

橋梁の3次元モデル、水面および地形情報を用いて、レイトレーシングに基づくSARシミュレーションを実施した。また、橋梁の変形前後を表現したモデルを用いることで、構造変形に伴う位相変化を計算し、実際のSAR観測から得られた位相変化と比較した。

4. 主な結果

シミュレーションによる振幅画像は、橋梁周辺の主要な特徴を定性的に表現できることを確認した。一方、水面を含む複雑な環境では、多重反射による振幅応答を正確に再現することに課題が残った。

位相情報については、橋梁の構造変形に対応する空間的な変化をシミュレーションで再現できる可能性が示された。特に、比較的大きな構造変形に対して、観測結果とシミュレーション結果の間に良好な対応が確認された。


図2. 観測SAR画像とシミュレーション結果の比較

5. まとめ

本研究では、3次元橋梁モデルを用いたSARシミュレーションと実際の衛星観測データを比較し、橋梁モニタリングへの適用可能性を検討した。その結果、振幅情報には複雑な散乱環境を再現する上で課題が残る一方、位相情報は構造変形の評価に有効となる可能性が示された。今後は、より多様な橋梁や観測条件への適用を通じて、SARシミュレーションを活用したインフラモニタリング技術の高度化を目指す。

謝辞

本研究は、内閣府科学技術イノベーション推進事務局(CSTI)が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートインフラマネジメントシステム」(JPJ012187)(管理法人:土木研究所)の委託業務の一環として実施されました。