Case技術・事例紹介
偏波コヒーレンスを用いた
地震後被害検出における降雪影響の識別― 2025年青森県東方沖地震を事例として ―
テラフェーズ 大串 文誉
東京科学大学 環境・社会理工学院 松岡 昌志
損害保険料率算出機構 山口 誠、西村 一馬
概要
合成開口レーダ(SAR)は、天候や昼夜に左右されず広域を観測できることから、地震後の被害把握に有効である。一方、SAR画像から得られるコヒーレンスは、構造物の変化だけでなく、降雪などの環境条件によっても低下する場合がある。本研究では、Sentinel-1のVVおよびVH偏波のコヒーレンス情報を利用し、地震後の被害検出における降雪影響の識別可能性を検討した。
1. 背景と目的
SAR干渉コヒーレンスは、地震前後の地表変化を検出するための有効な指標である。しかし、積雪などによって地表の散乱特性が変化すると、実際には構造物被害がなくてもコヒーレンスが低下し、被害と誤認される可能性がある。本研究では、VV偏波とVH偏波のコヒーレンス応答の違いに着目し、降雪に起因する変化と構造物被害を識別する可能性を検討した。
2. 対象地域と使用データ
対象は、2025年青森県東方沖地震の影響を受けた青森県東部の沿岸地域とした。解析にはSentinel-1のデュアル偏波(VVおよびVH)SARデータを使用し、地震前後の複数時期の観測データからコヒーレンスを算出した。対象地域には積雪状況の異なる複数の観測地点が含まれており、環境条件によるコヒーレンス挙動の違いを比較した。

図1. 青森県東部における対象地域および観測地点
3. 研究手法
VV偏波およびVH偏波について地震前後の干渉コヒーレンスを計算し、両偏波の応答の違いを解析した。また、市街地を対象として、地震後に顕著なコヒーレンス低下を示す地点を抽出し、降雪状況との対応を比較した。これにより、単一偏波のコヒーレンス解析では被害と誤認される可能性のある環境起因の変化を識別できるか検証した。
4. 主な結果
解析の結果、降雪が確認された地域では、VV偏波とVH偏波のコヒーレンス応答に特徴的な違いが認められた。一方、積雪の少ない地域では、このような応答は限定的であった。これらの空間的傾向は気象観測結果とも整合し、偏波ごとのコヒーレンス情報を組み合わせることで、地震後の被害評価に含まれる降雪影響を識別できる可能性が示された。

図2. 観測地点ごとの偏波コヒーレンス解析結果
さらに、現地写真から対象地域に顕著な構造物被害がないことを確認し、観測されたコヒーレンス変化が、主として降雪などの環境条件に関連する可能性が支持された。

図3. 対象地域における現地確認状況
5. まとめ
本研究では、Sentinel-1のVVおよびVH偏波のコヒーレンス情報を用いて、地震後被害検出における降雪影響の識別可能性を検討した。その結果、偏波間のコヒーレンス応答の違いを利用することで、構造物被害とは異なる環境起因の変化を捉えられる可能性が示された。本手法は、降雪地域におけるSARベースの災害被害評価の信頼性向上に貢献することが期待される。
謝辞
気象データは気象庁および青森県県土整備部道路課より提供を受けました。本研究では、欧州宇宙機関(ESA)より提供されたCopernicus Sentinel-1データを使用しました。World Settlement Footprint(WSF)データはドイツ航空宇宙センター(DLR)より提供されました。また、本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(KAKENHI)基盤研究 23K26348 の助成を受けたものです。ここに記して関係機関に感謝いたします。
