Case事例紹介

雪中の建物における変位モニタリング

目的

  • 磐梯山(赤埴山:あかはにやま)周辺に建設されているスキー施設は積雪により建物が変形する。建物が大きく変形してしまう前に、雪を落とすなどの措置を実施したい。
  • 現状は、建物に計測機器を設置し変位モニタリングを実施しているが、積雪で施設へのアクセスが難しくなるため、リモートセンシング(干渉SAR時系列解析)において、建物の変位がモニタリングできるかどうかの把握を行う。
  • また、干渉SAR時系列解析は、積雪により干渉性が低下し、精度が落ちるため、これらの影響についても確認する。

使用データ

  • Sentinel-1
    ・ヨーロッパ宇宙機構(ESA)が運用している衛星で、全世界の陸域における観測データを無償で公開している。
    ・空間解像度 15m
    ・観測周期:12日(日本)
  • 空間解像度は高くないが、12日周期で定常的に観測しているため、変位モニタリングには適している。
  • Sentinel-1の観測日は、2021年1月から2022年8月まで、合計80シーンの観測データを使用した。
  • 干渉処理に使用する参照画像(マスタ画像)は、2020年8月13日に撮影されたものとする。

解析エリア

【黄緑の画像】Sentinel-1の1観測範囲
【赤枠】今回のデータ解析範囲

調査方法

  • 変位推定するにあたり、赤埴山周辺の強度画像(地表面からの反射)を確認し、建物からの反射(後方散乱)があるかどうかを確認する。
  • 建物の後方散乱が確認できた場合は、その建物について時系列変位解析(PSI)を実施し、変位推定の結果を確認する。また、変位推定については雪の影響がないかについても把握する。
  • 変位推定は、既往と改良の2種類のPSI法にて実施した。

強度画像の確認

  • 2022年8月27日に撮影されたSentinel1の強度画像
  • 赤丸の箇所は後方散乱が強いため、地上の施設と考えられる。
  • 青丸の箇所も相対的に見ると後方散乱が強いと考えられ、より山頂に近いため、変位推定を実施する。

強度画像の確認-地図との重ね合わせ

  • 2022年8月27日に撮影されたSentinel1の強度画像を国土地理院の地図に重ね合わせたもの
  • 今回の観測期間を通しても、エリア1とエリア2については安定して後方散乱が強い地点を確認した。
  • このエリアとは別に、参考のため近隣の市街地の変位推定も実施した。

エリア1:変位推定

  • 赤埴山の山頂付近に存在する施設。

変位推定の高さは地面から30m程度、夏から冬にかけてセンサーに近づく変位(隆起に近い)、春から夏にかけてセンサから離れる変位(沈降に近い)が見られる。最大5cm程度の変位。

エリア2:変位推定

磐梯山テラス周辺
変位推定の高さは地面から共に3m程度、夏から冬にかけてセンサーに近づき、春から夏にかけてセンサから離れる変位が見られる。最大5cm程度の変位。

市街地の変位推定

2020-2021年の冬季、2021-2022年の冬季で変位がばらつくため、雪の影響が出ていると考えられる。

考察:雪の影響について

  • 変位を推定する際に生成する干渉画像が、冬になると積雪のためごま塩状のノイズ(左下の部分)が多くなっているのが分かる。
  • 干渉画像にノイズが多く含まれるシーンを取り除き、変位推定することもできるが、冬季の時系列変位における時間分解能は大幅に低下する。

その他:火山のモニタリング

  • 市街地はモニタリングできる可能性が大きい(SBAS法)

まとめ

  • Sentinel-1の空間解像度は15m程度であるが、赤埴山の山腹にあるテラスやリフトの施設からの安定的な後方散乱を確認することができた。
  • 施設からの安定した後方散乱により、時系列変位解析法の一つであるPSIにより、変位推定することが可能であった。
  • ただし、PSIの推定結果には積雪によるノイズの影響も含まれているため、冬季の変位推定結果については、現地データなどと比較しながら、推定の精度などを検証する必要がある。